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名探偵コナン
 最近夢を良くみる。

 君が居なくなってしまう。

 ―――手を伸ばしても届かない
 ―――声を上げても振り向きすらしない
 ―――君はその大きな翼を広げて、僕の元から飛び立ってしまう

 …そんな夢を

□□□翼

「っ、はぁ、はぁ、はぁ…」
悪い夢を見た。息が荒い、心臓も早く脈を打ちすぎている。
「…新っ…ちょっと大丈夫?ねー…新ちゃん?」
気付くと、隣で寝ていた快斗が起き上がって、心配そうな顔をして覗き込んでいた。
…なんでそんな哀しそうな顔するんだよ
「大丈夫、何でもねぇよ」
そんな顔されたらこう言うしかねぇじゃねーか
快斗は、それでもまだ哀しそうな顔をしていて…

―――夢

夢の中でこいつは、笑ってた。楽しそうな笑いではなく、口の端をつり上げただけの、冷笑。そしてそのまま振り返らずにその真っ白なマントをひるがえして…
―――お前は帰ってこなかった
ひらりと飛び立った               飛んでいった

「うわぁぁぁぁっ!!」
俺は思わず叫んだ。
「新ちゃん!?」
隣で呼ぶ快斗の声すら遠くに聞こえた。俺の頭の中では夢の映像がフラッシュバック・エンドレス
手を伸ばした――届かなかった
声を上げた――振り向かなかった
大きく開いた窓。真っ白いマント。そのまま君は、冷笑を浮かべたままで…俺の元から消えて…
「嫌だっ、嫌だぁっ」
俺は戸惑う快斗の服をぎゅっとつかんだ。
離れていくなんて嫌だ…
「…新一」
名前を呼ばれて顔を上げると、快斗は深く口付けてきた。
何も知らないのに
俺が不安そうな顔をしていたから…
「快斗」
「何も言わなくてもいいよ」
「いや…快斗、愛してる」
素直に言えた
俺が不安な時、優しくしてくれる、そんな君が好きだと…
深く長い口付けが俺の不安を溶かしていった

―――
―――。

「新一ぃ〜、今日俺仕事だから夕飯は悪いけど一人で食べてね」
快斗は、制服のネクタイを結びながらそう俺に告げた。いつもの俺なら、仕事ならしょうがない、と嫌味の一つ言ってやるくらいで済んだだろう。
でも今日は…今日だけは違う
「なっ、なんでだよっ!急に仕事なんてっ!!」
「悪かったってー。でも急に仕事入ることなんて今までにだってあったでしょ?」

ずきん

『仕事』という言葉が出てしまえば、俺はもう口出し出来なくなる。
快斗には快斗の目的があって、考え方もある。それが快斗の『仕事』であり、俺の口出し出来ない部分でもある。
「でも快斗っ!」
「おっと、もうこんな時間だっ!たぁ〜いへん」
「ちょっ、快斗っ…んっ」
必死で訴える俺の口を快斗の唇がふさいだ。朝からディープキスは…って!そうじゃねぇよ、てめぇ!!話を聞きやがれぇぃぃ!!!
「っぷはぁ…おっおい、快斗っ!!」
「ごめんね新一、話はまた夜に聞いてあげるよv」
「待てって快斗っ、今日はっっ…!」

ばたん

バカイト…
今日は絶対仕事は休むって言ったじゃねぇか
ずっと一緒に居るって…
なのに…忘れちまったのかよ
なぁ 今日は――――

―――
―――。

「ただいまー」
薄暗い家の中。今日は快斗が居ないんだったと気付くと、元々広い家が余計に広く感じられた。
いつもうるさいから気付かなかった…声って、こんなに響くもんだっけ?
答えてくれる人が居ないことを忘れて言ったただいまの一言が、妙に耳に残った。
今日は快斗が居ない日。
居ないと分かっていても少し期待して、いつも快斗が出入りする部屋のドアを開けたり閉めたりしてしまう。…あーぁー。キッチンへ行くとテーブルの上に、俺へのメモと夕食が置いてあった。
『新一へ
本当にごめんね。急に仕事が入ったので約束を破ってしまいました。でも大切な仕事なのでやらないといけません。夕食は一人で食べてね。ちなみにフライパンの中に玉子焼きがあるからね。行ってきます。 快斗』
フライパンを開けると白い湯気と共に美味しそうな玉子焼きが見えた。……え?ちょっと待て…湯気??そして…
俺は慌ててメモを手に取った。
――やっぱりっっ!!

「快斗ぉっ!快斗っ!!」
湯気が立っていたということは、作ってからあまり時間がたってないということ。そしてメモのインクのかわき具合。
―――快斗はまだこの家の中に居る!!
「快斗ーっ、快斗っ!!」
ばたん
俺の部屋のドア。勢い良く開けすぎて戸が外れないか不安になるところだけど…今はそんなことを気にしてる時じゃない。
「快斗っ!!」
「あ゛」

快斗は…というか目の前に居たかのは怪盗キッドだった。
白いスーツにマント。ズレたシルクハットを持ち上げて。
「ヤバっ!!」
「ちょ、待てよてめぇっ…」
いつから開いていたのか、大きく開いた窓に向かって走ってゆく。
強く吹く風。大きくはためくカーテン。そして、大きく広がるマント。
―――――――白
一面の白の景色。そして君の白い翼。大きく広がったその翼は、大空を舞って、俺から離れてゆくためにあるんだろう??
―――手を伸ばしても無駄だって
―――声を上げても仕方ないって
分かってるのに
「快斗っ!」
俺は叫ぶ。
「…行かないでっ…」
そして手を伸ばす。届かないはずだった…
ぱしっ
「私が愛しの人を置いてゆくわけがないでしょう?」
キッドの白い手が俺の手をしっかりと握った。そして向けられた笑顔は、決して冷笑などではなかった。
「…っ、じゃぁっ…」
「今日のお仕事は貴方にプレゼントを届けることだったのですよ」
「え?お前怪盗じゃ…」
「怪盗は盗んだモノを正しい持ち主に返すのも仕事なんですよ」
「それってどーゆー…」
「もっとも、盗んでしまったのは貴方のようですがね…黒羽快斗の心、を」
「――え?」
一瞬、キッドの姿が消えて、次の瞬間快斗が現れた。
「おい快斗っ、どーゆーことだよ!俺がお前の心を盗んだってっ…んんっ」
「こーゆーことだよv」
「どーゆーことだよ!いきなりキスしやがってっ!!」
「……ねー、新ちゃん」
「あん?なんだよ、イキナリ話変えようって手か?その手には…」

「誕生日おめでとう」

「おっ、覚えてたのかよ?」
「やだなー、忘れるわけないじゃないそれにさっき言ったでしょ?プレゼントだ、って」
「ん…?てことはプレゼントってまさか……快斗??」
「ぴんぽーん♪」
「え゛っっ!なっ、なんでだよ!?」
「嬉しいでしよ?」
「え?それは…っ」
「聞こえないよ〜?」
今日くらいは、しょうがないと思ったんだ。

「嬉しいよ、快斗」
君の白い翼は、俺に幸せを運んでくるんだと分かったから…