君の笑顔を見たのは何度目だろう


──もう何度だって見た。



君の泣き顔を見たのは何度目だろう


──もう飽きるほど見た。



じゃぁ


僕の涙を見るのは
何度目だろうか



昼下がりと曇り空のディスコォド






ふかふかのソファに寝転がる俺とゴン。
手を伸ばしたらすぐ届く位置。
肌が触れ合って、こども体温のゴンに心地良さを感じる。
俺の冷たい手。


休日の昼下がり。
昼メシを食いに出掛けた帰りに寄ったレンタルショップで借りてきた大量のゲームを床いっぱいに広げる。

グリードアイランドをプレイして以来、ゲームに興味を示すようになったゴンが、驚喜の声を上げながら品定めする。
時折俺の名前を呼ぶ。
その余韻に浸っていると、ゴンが小首を傾げて、変な顔をしていた。


「ねぇ、キルア…なんだろこれ?」


不思議そうな顔のゴンの手にはビデオテープ。

借りてきた覚えの無いカヴァー、タイトル。

勿論、ビデオなど借りてきた覚えは無いが、何しろ手当たり次第に投げ込んだ結果だ、ビデオの一本くらい紛れても分からなかっただろう。


「なんだろね、これ」
「んー、まぁ、時間はいっぱいあることだし、とりあえず見てみるか」
「さんせー!」


と、片手をぐーにして突き上げるアクション。
こんな可愛いところも大好きだ。






───



ストーリーは単純明快だった。

物語は恋愛ものらしく、2人の男女が登場していた。

極普通に出逢い、極普通に告白して、極普通に付き合って、恋愛する。


正直、見ていておもしろかなかった。

だから、2人が喧嘩して少女の方が部屋を飛び出しても唯、ふぅん、と肘をついて見ているだけだった。


「大嫌い!!」


そう叫んでドアを乱暴に閉めた彼女を、怒った顔で見送る彼。



その姿が、



ほんのちょっとだけ 自分とダブった。



数秒後、落胆する青年。

自分の過ちに気付いたらしく、落胆し切った顔で、ベッドに倒れ込む。
何かを思い立ってドアを開けて外を見回す。
誰も居ない廊下に踵を返して、窓を開けて、下を覗き込んで、目を凝らして。
無駄だった行為に屈した彼は、部屋を飛び出してキッチンへ向かう。
冷蔵庫を開け、もう怒りも無いであろうに牛乳を取り出して、コップ一杯飲み干す。
落ち着かない。
じっとして居られない。
コップを投げ捨てるように流し台に放ると、リビングに移り、ソファに座り込む。
新聞を広げる。
続かない。
落ち着かないから。
遂には立ち上がって、意味も無くぐるぐると徘徊し始める。
意味など在る筈も無い。
訳すら分からないだろう。
ポケットを探る。
携帯電話。
090…十桁目で指が止まる。
最後の一桁を押せない。
停滞。
再チャレンジ。
何度も繰り返す。
妥協してメールボタンを押しても、新規作成画面は白紙のままで。
もどかしさと、情けなさがぐるぐる回る。
気持ち悪く、て。
目を瞑って、少々瞑想。
その間に親指は素早くボタンの上を走った。
今まで意識とゆう枷に捕らわれて動けなかったとでも云うかのように。
恐らく何時もの癖で。
何時も一緒に居るであろうに。
それでも、君の番号は忘れない。
何時でも。
知らぬ間に手の中の携帯から発せられる呼び出し音で、驚いた彼は、何度も取り落としそうになりながらもそれを耳に持ってゆく。
「もしもし…」
相手は無言。
でも続ける。
「さっきは悪かった」
やはり無言。
迷う。
今自分が言葉を発することで、今まで以上に悪化させはしないか。
とか。
でも、停滞は嫌だとも、感じる。
「君が好きです」
いきなりの告白。
彼の精一杯。
だから彼の顔は笑顔。






あれ。





これなに?
…この感覚。






いつの間にか入り込んでいた。
俺は彼で。
彼は俺だった。





ダブり過ぎた。




分かり過ぎた。


共感出来過ぎた。







ぽた







「キルア?」


覗き込んでくるゴン。
何やってんだお前、見えねぇじゃねぇか。


「ねぇ、キルア、泣いてるの?」



ばっか、泣いてる?
俺がか?
泣いてるなんて感覚、覚えちゃいないね。
だから、もう、早くどけよ、目の前に白い膜があって、良く見えないじゃねぇか。
テレビの画面も歪んでて、がたがた動いて、見えづれぇんだよ。


「キルア…ちょ、ね、泣かないでよ、何があったの?」



だから、何も無いって言ってんだろ!
良いから、この視界の悪さをどうにかしてくれ。
もう目の前ぐちゃぐちゃで、テレビ画面どころじゃねぇんだよ。
あぁ、もう、何か耳までおかしくなって、お前の声すら曖昧気味。

もう、どうなってんだよ、訳分からん。



「キルア…?」



心配そうなゴンの顔は歪んで、ゴンの声も細切れにしか耳に入って来ない。
なんだこりゃ。



不意にゴンの手が伸びて、俺の頬に触れた。
その手が俺に触れる。
心地良いこども体温。




…………あれ。


冷たい。水滴。これは





涙。





おかしいな。こりゃおかしいね。あれあれあれあれ。
俺は殺し屋で。
非道一直線で。
意地悪い悪魔で。
涙の流し方などとうに忘れた筈だった。



その俺が涙?泣いてる?





「…ゴン、オレっ、ふぇ」




不可抗力。
つか泣くつもりなど無くて。





「どーしたのー、キルア、もう泣かないでよー」




そんな苦笑いの君を見て気付いた。







俺は君の前だから泣けるのだと。








「うぅー、キルアの泣き虫ぃー」
「…今日だけ、な」






少しだけ
君の前でだけ
君の傍に居る時だけ


涙を流させて
弱音を吐かせて







たまにはそんな日があったって良い。
僕は君以外の前では


泣けはしないのだから





end








☆アトガキ


何か全体的に意味の分からない話に…あわわ。
結局、キルアがゴンの前で泣くってとこと、最後の、キルアはゴンの前でしか泣けないんだ、ってことが言いたかったのですよ。
ちなみに、題名のディスコォドは「不協和音」の意味。何時もとは違う感じの題名付けてみました。
あと、最近石榴は漢字とカタカナの小文字のフェチなので、伸ばし棒は必ず小文字にしちゃいます。「ディスコォド」が良い例。あと、漢字てのは「何時も」とかの日常外変換のこと。密かなマイブーム。…随分暗いな、おい。