純情可憐*




「ねーゴン、いつまで残ってんの?」


放課後。
夕日を浴びる教室に、オレとゴンはいた。


「この仕事が終わるまでー」


さっきからこの調子で、ゴンの仕事、とやらが終わるまで待っている。

ちなみに、ゴンは「生き物係」(…すげぇ幼稚な名前)で、
今は必死で「金魚の一日」を書き記している。
そんなもん適当に書いときゃ良いのに、可愛いオレの恋人は純情で、真剣にペンを動かしていた。

かといって、決して綺麗な字ではないが、そこはご愛嬌。

とにかく、可愛くて



「キルアー、消しゴム貸してー」


左手を前に出して、声を掛けてくるゴン。
見ると、ゴンのペンケースはオレの机の上にあった。

後ろを向いて、手を伸ばすゴン。
すんなりと消しゴムを渡そうと思ったところで、意地悪い考えが浮かんだ。

消しゴムをゴンの手の真上に持っていき、ゴンが掴もうとした瞬間、ひょい、と上に持ち上げた。


ゴンの届かない位置。


手をばたばたさせて、それでも取れない身長差。



「キルアー」


ちょっと怒ったゴンがまた可愛くて、
ずい、と顔を近付けて、
とどめの一言。




「ちゅーしてくれたら返してあげる」




あっさりと、当然のように言ったオレを見て余計に恥ずかしくなったのか、赤くなって、ふい、とそっぽを向いてしまう。

それでもやはり気になって、横目でちらちらとオレの唇を見てるのが分かるから、
それが可愛くて抱き締めたくなる。


「うー、うー、うー」

しばらく唸ってからゴンは



「キルアのバカっ!」



…恥ずかしさに耐えられなかったらしい。
間違えた字のところは、ぐりぐりと黒く誤魔化していた。



―――。

「よっし、終わったぁー!」

やっと、下らない『生き物観察日記』を書き終えたらしいゴンは、嬉々とした顔で立ち上がった。


時は春、桜の季節
窓際のこの席
窓の外には桜の木


そして、



「先生に届けに行ってくるね」
と、先程の悪戯など忘れたと言わんばかりの屈託のない笑顔で
オレに振り返ったゴンのちょうど唇に、
風に舞った花びらが触れて落ちた。








それは一瞬で
しかし綺麗で

だから、
だから、
オレは、




立ち上がって、
駆け寄って、
両方で顔を包み込んで、
口付けた。


桜の花びらが良くて、
オレの唇が嫌だなんて癪。


だから思いきり、
悪戯な花びらと、
気まぐれな風に、
見せつけてやるように、







オレは君に深く口付けた。










☆あとがき

ご、5000hit!
ありがとうございますvv
もう、500も超えた頃にすみません。
リクエストは「学園生活なキルゴン〜春」なるものでしたが、いかがだったのでせうか。うぅむ。
何やら、阿呆な話ですね。
キルアの脳内ってこんなもんです。
何にでも嫉妬するの。
仕方ないのよ、万年春病じゃから。
と、とりあえず、わざわざ報告頂いたときいちさまに捧ぐ。