一緒に居よう
ずっと一緒に居よう
飽きるほどずっと一緒に居よう

□□□星夜

「キルア、今日どっか行く予定ある?」
朝、いつものようにゴンがキルアのことを起こしにくる。キルアが目を開けると、すぐ目の前にゴンの黒い瞳があった。
「…っ、いきなり何だよびっくりしただろー」
「ごめん」
「ま、別に良いけど…何だって?」
「あ、あのさ、今日ってキルア出掛ける予定ある?」
「えー…特には。てか何で?」
「べっ、別に何も…」
「ふーん…(怪しいけど)どーでも良いか。あ、そーいや今日発売の限定チョコロボくん買いに行かなきゃ!!」
「そ、そりゃ行って来なきゃだね!どの位かかる?」
「んー…あれ限定商品だから遠くまで行かなきゃいけないけど…半日くらいしたら戻って来れるぜ」
「そっか。うん、分かった。半日だね?」
「そーだけど…さっきっから何なの?」
「え、えっ?」
「オレの予定がどーしたっていうんだよ?」
「ま、まぁ良いじゃない」
「全然良くな…」
「…あ!キルアもう出掛けなきゃいけないんじゃない!?」
「うっわホントだ!ゴン、そこの着替え取ってくれ!!」
「はいよー」
「あーくそ。早く行かねぇと間に合わねーよ!!…っっ、行ってきまーす!」
「うん、行ってらっしゃい」

ばたん

慌ただしくキルアを見送った後、ゴンはそのまま迷わずキッチンへ向かった。そんなつもりは無いのに、自然と顔がにやける。
今日は7月7日。世間一般では七夕として祝われているようだが、ゴンは違う。今日は、ゴンの大切な人の誕生日なのだ。

今日はキルアの誕生日。
本当は朝一番におめでとうと言って、午前中は2人で出掛けたりしたかった。
午後になったら後は部屋に帰って、ずっと一緒に居られれば…。
それは理想の誕生日ではあったけど…
でも、ゴンはあることをひらめいてしまった。思いついてしまった。
―――キルアへの誕生日プレゼント
ずっと悩んで、思いついたのは昨日の夜。

キルアにケーキをつくってあげよう

甘いもの好きの君のために。とびきり甘い誕生日プレゼント。
とはいえ…キルアが帰ってくるまでの半日間…本当に終わるだろうか??…ううん!!
ゴンは思い切り首を横に振った。…キルアのためじゃん!絶対成功させなきゃ!!
いつも、キルアには何かしてもらってばっかりだから。嬉しい言葉をくれるのも、オレが喜ぶプレゼントをくれるのも、全部キルア。
せめて今日オレから、オレがキルアを幸せにしてあげる。
「よーし、頑張るぞー!!」
ゴンは思い切り腕まくりをして、エプロンの紐をぎゅっとしめた。

―――
―――。

「くっそー、10個しかねぇってどういうことだよ!!」
ご立腹のキルアは、石を蹴りながら帰り道を歩いていた。
キルアは、本日発売の限定バージョンのチョコロボくんを買いにわざわざ遠くまで足を運んでいた。
このチョコロボくんは何しろ限定商品で、買える場所すら限定されてしまっているのだ。
「わざわざ遠くまで来たっつうのに…くそ」
そう言ってキルアは足元の石を思い切り蹴飛ばした。石が弧を描いて飛んでゆくのが見えた。
ポケットに突っ込んだ手には一万ジェニーのお札が何枚も握られている。
せっかくの限定商品、箱で幾つ…の単位で買う気でいたのだが…。実際残っていたのはたったの10個。…ふざけてやがる!!
あー…このまま帰るのはマズいな…。
もしこんな腹を立てたまま帰ると、ゴンが余計な心配するからなー。

…よし。

キルアは心の中で深く頷いてから、目の前の喫茶店へと足を向けた。
「あー疲れた」
キルアは席につくなり、思わず溜め息をついた。あまりに怒ったので腹が減ってしょうがなかった。
ウエイトレスが運んできたコーヒーを、一気に飲み干す。少し腹のむかむかが和らぐ。
「やっぱこんな時は甘いもんだよな〜vv」
一人呟きながら買ったばかりのチョコロボくんを開ける。そこでふと疑問に思う。
…これって何限定だったっけ??どうでも良い疑問だったが、妙に気になった。
パッケージを裏返すと、夏限定の下に七夕発売。と書かれていた。

『七夕』…この単語が引っかかった。

「あ」

七夕=7月7日=オレの誕生日

じゃん!!
なんで気づかなかったんだろ…。それは…ゴンが何も言ってくれなかったから……?
もしかして、ゴン…オレの誕生日忘れてるんじゃ…?
そ、そうか、まぁそうだよな。いつも一緒に居るから、気付かないかもしれない。いつも会っているから。
でも、それでもオレにとっては、大切な日だから…。
他の人なんかはどうでも良いけど、君にだけは、覚えていて欲しかった。
ただ一言…おめでとう、と言ってくれるだけで良いのに…。
それに…
ゴンは今日、オレのこと追い出そうとしてなかったか?
そこまでいかないまでも、どこか避けていたような気がする。ずっと一緒に居れば、嫌になる時だってあるだろう。
でも…よりによって、今日じゃなくても良いのに…。
今日だけは、他のことは考えないで、オレのことだけ…。

我が儘だって、分かってるけど…。


――――――。



「キルア遅いなぁー…」
ゴンは時計を見上げて呟いた。午後には帰ってくる、と言ったキルアはまだ帰ってこない。
時刻は午後7時…あまりに遅すぎる。
何かあったのだろうか…??今まで感じていた不安が急にどっと押し寄せてきた。
心配になって、いてもたってもいられなくなった。
キルア…どこにいるの??

ばたん

キルアがいつでも入って来れるように、と鍵をかけないでおいたドアが開く音が、静かな部屋の中に響いた。
「お帰り、キルア!」
いつもと同じように駆け寄ってくるゴン。それを見たキルアは、眉間にしわを寄せた。
いつもと同じ台詞
いつもと同じ行動
今日が特別な日だなんて、まるで感じられない一日。それとも、もしかして、今日を特別だと感じているのは…オレだけ…??
「ゴン、お前…っっ」
突然、キルアの言葉をゴンが遮った。――その唇を重ねて…
そしてその後、キルアにぎゅっと抱きつく。

「キルアの馬鹿!心配したんだから!!」

こんなこと、しばらくなかった。ここ最近は、ずっと一緒に居たから…
「ゴン…ごめん」
素直に謝れた。さっきまであんなに腹が立っていたはずなのに…
そして、今度はオレから口付ける。ゴンがオレにしたのとは違う、深く長いキス。オレが離すと、ゴンは、すぐにまた唇を近付けてきた。
いつもは有り得ないゴンの行動。何も言わなくても分かる。今日は特別な日なのだと、優しいキスが伝えていた。

チーン

せっかくの良いムードの中、澄んだ電子音が響いた。

「ああっ!!」
ゴンが思い出したように立ち上がって、大急ぎでキッチンへと向かう。仕方がないので、オレもその後についてゆく。
「あっ!!ゴン…それって…」
ゴンがオーブンから慎重に取り出していたのは、美味しそうなスポンジケーキだった。
「あ゛…キ、キルア!!」
ゴンがとっさにケーキを隠そうとする。
「ゴン…まさかお前…」
その瞬間、オレはすべて分かったような気がした。
ゴンがオレを追い出そうとした理由も
朝、あんなにオレの予定を気にしていたのも
すべて…
「ごめん、キルア。ずっと隠してて…でもオレ、キルアを驚かせようと思って…」
うつむいてそう言うゴンを、キルアがぎゅっと抱きしめた。そしてもう一度、深いキスをその唇に落とした。
唇から感じるゴンの体温が高いのに気付いて、思わず唇がほころびそうになる。
「大好きだよ、ゴン」
「オレも大好き」

―――。

まだ何もデコレーションのなかったスポンジケーキに、2人で飾り付けをした。
「ゴン、ほっぺにクリームついてる」
キルアがゴンの頬を舐め上げる。同時にゴンの頬が紅く染まって、それを見て2人で笑い合った。

「ねぇ、キルア。ずっと言えなくてごめんね。
誕生日おめでとう」
キルアは不意打ちだった言葉に赤面した。

「…何言ってんだよ。いつ言われよーが、その言葉さえもらえれば嬉しいんだよ」



君からのプレゼントは甘い甘いバースディケーキ。甘いもの好きの俺のためだけに、君が作ったケーキ。
君からのプレゼントは甘い甘い君の言葉。甘いもの好きの俺のためだけに、君がくれる最高の言葉。
いつもと同じようで、どこか違う特別な日。
どんなことがあっても一緒に居よう。
一緒の日々が長いほど、特別な日がより幸せに感じられるはずだから。

飽きるほどずっと一緒に居よう。





☆アトガキ

…あ、題名と内容が噛み合ってない!!ま、良いか。
えー、とにかくハッピーバースディキルアv誕生日に間に合わなくても君とキルゴンへの愛は変わらないよー!!
…では、お目汚し失礼致しました!!最後まで読んで頂いてありがとうございます。