久しぶりに、夢を見た

幸せな夢なら覚えていない

いつも覚えているのは、
思い出したくもない、悪い夢だけ


call my name




「はぁ、はぁ、はぁ…」

寒い

全身に冷や汗をかいている。
良く見れば、ベッドの脇に毛布が落ちてしまっていた。
キルアは険しい顔でそれを拾い上げると、そのままぼーっと空を仰いだ。

夢をみた。
しかも、かなりタチの悪いやつを。

考える間もなく視界がぼやけ始めた。
眠い。
時計を見ると、キルアが起きるのにはまだ早すぎた。
早く目を閉じて眠ってしまいたい。
そう思ってもなお、キルアの目は一向に閉じることはなかった。
今目をつぶったら、もう一度あの夢をみることになってしまいそうで、ただ怖くて仕方なかった。
ただでさえあの言葉が耳から離れずにいるというのに…
キルアは思わず身震いせずにはいられなかった。

「お前は熱をもたない闇人形だ」

無機質な声が、頭の中に響いて、反響する。

もうどのくらい経ったのだろうか…
少なくとも1年は過ぎているはずだが、
未だにこの夢は終わることがない。忘れる頃になると思い出させるように夢をみせる。

ハンター試験、その最終試験で彼は…キルアの兄、イルミは言った。
語り掛けるというよりは、まるで一つ一つの言葉を植え付けるように。

「自身は何も欲しがらず
何も望まない
陰を糧に動く
お前が唯一喜びを抱くのは人の死に触れたとき」

…勝手に決めるな

キルアは心の中で叫んでいた。
うるさい。

それでも

イルミには勝てなかった。
徐々に、どうにかなる、なんて甘い考えは消え失せて。
ただ恐怖だけが残った。

イルミの前には居たくない…
今すぐ逃げ出してしまいたい

キルアの頭はそれ以外の感情を考えられなかった。
とにかく逃げなければ、
自分がおかしくなってしまいそうだった。



…闇人形


人形?

キルアは、その言葉に違和感を覚えた。

人形、というのなら…

感情が無く、主人の言うことに忠実なモノのことではなかっただろうか。
ここでいう主人とは、キルアの父、シルバであり、兄のイルミのことである。

と、すれば

キルアの頭に言いようのない不安が立ち込める。

人形など、代わりは幾らでもいるのではないか、と。
わざわざ自分でなくとも…

今まで、家族は自分を過保護なまでに育ててきた。
しかし
それはたまたま自分が優れた素質を持っている、とそれだけの意味でしかないのではないか。
自分の代わりがいたとしたなら、自分など全く相手にされないだろう。
果たして、自分に才能が無かったとしても、家族はここまで過保護になっただろうか。


自分には、何の意味があるのだろうか?
殺人をするためだけなら、本当に人形を使ったら良いのだ。
じゃぁ、俺の存在は人形と一緒なのか?
それならば
人形には、代わりが幾らでもいるように
俺の代わりなど幾らでもいるだろう。

それでも俺は


生きている価値があると言えるだろうか



「んんっ…あ、あれキルアこんな早くどーしたの?」
隣のベッドからの声が、不意にキルアの耳に飛び込んだ。

黒髪に黒い瞳、目をこすってあくびを一つしたゴンは、キルアの様子を見ると、目を見開いて驚いた顔を見せた。

「なっ、なんでそんな具合悪そうな顔してるの!?」
キルアは首を横に振って何でもない、と訴えたが、ゴンは信じていないようだった。

「何でもないはずないでしょ!こんなに汗かいてるし!!」

少し怒ったように叫ぶゴンを見て、キルアは思わず笑みをこぼした。

「なっ、何笑ってんの!?オレの顔何か付いてる?」
「ちげぇよ」
「じゃぁ何さっ!キルアってば!!ねぇ!」

あぁ

俺は、なんて簡単なことで迷っていたのだろう

そんなの、答えは目の前にあったというのに



「キルア」



そう、そうやって俺の名前を呼ぶ君が

ただ一つ


俺の存在価値…



君が居ることが
俺の生きる意味だから…






アトガキ☆

無駄に長くなってしまいました…申し訳ありませんでした!お読み下さいましてありがとうございました。