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オリジナル

君はいつも優しくて
僕はいつもそれに甘えて
でもたまには叶わないこともあって、僕はそれが悲しくて…
叶わないことは分かってるのに、望まずにはいられない…

『君の手が僕の髪に触れたら』―――前編。

「ねー紅樹ぃ〜、たまにはどっか遊びに行こーよ」
『嫌だ』
「え゛っ…なっ、なんでだよ!?」
恋人に甘える少年、知哉は、受話器から聞こえた予想外の返事に動揺して、思わず声を大きくしてしまった。
『嫌なものは嫌だ』
「なーんーでーだよ!!」
確かにこの知哉の恋人とゆうのは、ちょっと変わっていてかなりの無口だ。それでも今までは、しょうがないとか何とか言いながらも、知哉の言うことはきいてくれていた。それなのに…
「なんだよ…何で嫌なんだよ…っっ」
そんなつもりは無いのに何故か言葉を詰まらせてしまう。そんな…泣くつもりなんか無いのに…。
『知哉?』

自分を呼ぶ低い声が心地良くて、格好良くて、酔ってしまいそうにすらなるが、その声も自分を拒むために使われるんだと思うと涙がこぼれそうになる。
会う約束を断るのはつまり、会いたくないからで。会いたくないということは、好きではないからで。あまり会う機会なんか無いのに…それでも会ってくれないのはきっと…

「紅樹はオレのこと嫌いなんだ」

自分でもひねくれてると思う。こんなこと言ったら紅樹を困らせることも分かる。でも…
『っ!何言ってんだトモっ!?』
「だって紅樹、久しぶりに会えるんだよ?なのに嫌って…それに用事があるんなら言ってくれるのに…言わないってことは理由が無いんでしょ?ただ…オレに会いたくないだけなんだろっ!!」
受話器に口を近付けて、思いっきり叫んだ。何故か不安になっていた。何か分からないものに怯えていた。叫んででもいないとどうかなってしまいそうで。
『トモ…お前なぁ…』
「馬鹿だとか言いたいんだろ!どーせオレは馬鹿だよ!だからこんな紅樹のこと困らせて…」

『知哉』

一言。紅樹の声が知哉の耳いっぱいに響いた。痺れたかのように知哉の思考が停止する。
『知哉、良く聞け。俺はお前のことが好きだ。』
一瞬、知哉の耳は機能を停止させた。何も聞こえない。聞こえるのは紅樹の、低く響く声だけ。
「こーき…」
『好きだ。それでも嫌だと言ったのは、ただ、前みたいなことがあったら嫌だと思っただけで…』
前みたいなこと…??知哉は小首を傾げる。そして思い出した。
前に紅樹と待ち合わせした時、知哉は駅のホームにあるベンチで寝てしまったことがあった。
その時、紅樹が知哉をお姫様抱っこで電車に乗り込んだのを、知哉は恥ずかしさから、目いっぱい抵抗したのだった。
「寝ちゃったこと怒ってるのか…?」
『違う、俺は別に良いんだ。ただ、お前が嫌がってたから』
………恥ずかしい。
これは、勘違いどころではない。こんな簡単な理由だったのに、勝手に一人で勘違いして、取り乱して。しかも紅樹は、オレのこと考えてくれてたのに。自分のことじゃなくて、オレのこと…
『…や、知哉』
「う、うわぁっっ、なっ、紅樹、オレ…」
『…お前、今顔真っ赤だろ?』
「へっ??」
知哉が頬に手をあててみる。しかし、すぐさま慌てて手を放す。その手はびっくりするほど熱を残していた。なんでこんな…
「…っ、何言ってんだよ!そんなわけねぇだろっ!!」
『嘘つけ。動揺してるだろ』
「してない!し、第一なんで分かるんだよ!?」

『ばーか。お前のことなんだから分かるに決まってんだろ』

受話器の向こうで、紅樹がニヤリと笑っているのが分かる気がした。
…いや、気じゃない。紅樹のことだから、『分かる』んだ。
オレの言いようのない不安は、いつの間にか消え去っていた。たとえずっと会っていなかったって、心はつながってるから。実際に顔を見て話すのも嬉しいけど、ケータイを…機械を通しても、ちゃんとつながってるって確認出来たから、それだって充分幸せ…そう感じられたから。
『…いつ暇だ?』
「へ?」
『遊びに行くんだろ?いつ行きたいか、って聞いてるんだよ』
「紅樹、行ってくれるのか!?」
『トモが嫌じゃないならな』
「紅樹ぃ…」
『お、おいこら泣くな!!』
「泣いてなんかないやい!ん…でも…ありがとう」
『馬鹿、何言ってんだよ。そんなの
今更だろ?』

君の言葉は時には僕を苦しめて、時には僕を幸せにする。でもそれは、君が相手だから。僕が好きな君の言葉だから…


to be continued...?