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オリジナル

今日、僕たちは久しぶりにデートすることになりました。



『君の手が僕の髪に触れたら』───後編。


ある田舎ぎみの駅のホームに、一人の少年の影。
「とうちゃーく、一番乗りっ!!」
薄い茶髪に幼い顔つきの少年、知哉は生まれつきのハイテンションで叫んだ。
「今日は寝ないようにしなきゃなぁ…」
以前の失態を思い出してちょっと落ち込む。前に約束した時も、知哉は紅樹よりもずっと早く着いていた。にもかかわらず…というよりだからこそ、つい気がゆるみ、紅樹が着いた頃には完全に夢の中になってしまったのだった。
「…よし!」
改めて気合いを入れ直した知哉は、数分後…見事に睡魔の罠に落ちていた。
先程までぎんぎんに見開かれていた目はとろん、としていて今にも閉じてしまいそうで。
頭はぐらくら。時々かくん、と落ちた後、肩がびくん、と震えて眠気を覚まそうと頭をふるふる、と振る。
…寝ちゃ駄目だってば!!
自分を叱咤して頬を両側から思い切りビンタした頃には、周りに人が集まり始めていた。
それには知哉の待ち人も例外ではないわけで…
「お待たせ、トモ。今日は寝ないで待ってられたんだな」
知哉の好きな低い声が、ぼーっとしていた意識を呼び覚ます。
偉い偉い、と大袈裟に頭をくしゃくしゃと撫でる大きな手。一見恥ずかしいその行為も、知哉が喜ぶことを知っているからこそやるわけで。
「いつまで触ってんだよっ!!恥ずかしいっての!」
「電車が来るまで」
周りを気にせず叫ぶ知哉の顔が、真っ赤に染まっていることを知っていても。嫌なのではなく、素直に喜べないからだと分かっているから。
黒髪の待ち人、紅樹は今度は優しく、乱れた髪を整えるように、知哉の髪を撫でた。

よほど大切な予定でもあるのだろうか、先程からずっと時計を睨むように見つめていた青年が顔を上げた。それと同時に、電車の音と、アナウンスが聞こえた。
「ほ、ほら紅樹っ、電車来るぞ!手ぇ離せよー!!」
未だ赤い顔をしたままの知哉は、同じく未だに知哉の髪を弄っている紅樹に向かって声を掛けた。紅樹はちょっと残念そうな顔をしつつ、渋々手を離した。
電車が到着し、周りの客が乗り込んでゆく。それでも動こうとしない紅樹。
「紅樹ぃー!早く乗らないと座れねぇぞー!!」
「はいはい」
やっと座っていたベンチから腰を上げる。
そこで、ふと気付く。
「トモ、お前って背ぇ低いのな」
今までこと意識したことなかったのだが、ふと気付いた。
知哉は別に背が小さいというわけではない。紅樹の長身ゆえに、頭半分くらい…目線が大分変わるくらいの身長差がある。
「お前がでかいだけだろっ!!」
知哉がくるっ、とそっぽを向く。
それは別に紅樹の言葉に腹が立ったわけではなく、紅樹の声が頭の中で響いてしまっていたからだった。
久しぶりに聞く紅樹の声が愛おしく思えて。
機械を通したのとは違う、綺麗な響きがあって。

「トモの髪、気持ち良い…」

そんなこと言われたら、もう怒ることなんて出来なくて。


君の手が僕の髪に触れたら、君の手は僕を安心させる。
ここにちゃんと居ると確認させてくれる。

でも
それだけのことで嬉しくなるのはやっぱり

僕が大好きな君だから。




後日談。
電車発車前に無駄な遊戯をしていた二人は、当然の如く電車に乗り遅れましたとさ。
end


アトガキ☆
実は、最後の髪撫でるとこだけが書きたかった石榴です。えと、これだけのオチのためにお付き合い頂き、誠にありがとうございました。